教え tell me – vol.4 夏といえば

毎年この季節になると、どこのお寺さまも必ずといってよいほどお盆のお詣りをお勤めさせていただくことではないかと存じます。かくいう私も安楽寺様にお世話になる以前からお盆詣りを勤めさせていただくご縁をいただいており、その中でも特に印象深かった米国でのお盆詣りの思い出をご紹介したいと思います。

米国でのお盆といえば、メモリアル・デー(戦没者追悼記念日)と呼ばれるものがあり、毎年5月の最終月曜日に墓前にてお詣りさせていただいたり、霊園などで大規模な合同追悼法要を行ったり、路上を軍服姿の人や消防車などがパレードをしたりします。
元々は南北戦争の戦没者を追悼する日でしたが、今では南北戦争に限らず戦争によって国の為に命を犠牲になられた軍人さんたち全てを追悼する日となっています。
また、身近に戦争で国のために犠牲になられた方をおもちでない家族の方々にとっても、それは“夏の始まりの日”となるほどの大イベントなのです。

私が勤めていたお寺でも北部地区と南部地区、二方面への出張お盆お墓詣りというものがあり、特にコロラド州から南部のニューメキシコ州・テキサス州、三州に渡る2000キロ以上の道のりを5日間ひとりでお墓詣りを巡るという旅がなかなか味わい深いものがありました。

地平線に向かって延々と続く一本道。道路脇は見渡す限りの平原。ひとり眠くなるのを我慢しながら、コーラや珈琲をがぶ飲みしラジオの音量をあげる。うっかりガス欠になりかけた時など村の人たちに助けてもらったこともありました。そんな中、ちょうど山奥の下り坂を運転していたときのことです。うっかりハンドル操作を誤り緊急避難所(下り坂でブレーキが故障した車が避難する場所)に進入してしまいました。だいぶ奥まで入ってしまったのもあってギアをバックに入れても細かい砂利を無意味にまき散らすだけで、私には車のタイヤに噛ませる毛布も持ち合わせておらず、完全なる陸の孤島状態。。。携帯電話を見ても圏外。。仕方なく私は車外で助けてくれるひとを待ちました。

30分経過。ほとんどの車が素通りしていきます。1時間経過。やっと止まってくれた男3人組の車が助けを呼んであげると言ってくれました。2時間経過。どうやらさっきの3人組にはからかわれただけのようです。2時間半経過。高級車が止まり中からタイガーウッズ似の人が降りてきて、「何かお困りですか?」と尋ねてこられたので、事情を説明すると、「僕の友達がレッカー会社で働いているから、今すぐ彼にこのことを伝えるよ」と言い残し、走りさっていきました。

またからかわれたのかなあと思った30分後・・ついに!レッカー車が!中からつなぎを着た小太りの白人男性が「困ってるお坊さんがいるっていったけど・・君かい?」との言葉に即座にそうです!と応えたその時です。さきほどの高級車が再び戻ってきました。

何をしに戻ってきたのだろう?と思い彼に尋ねてみると、「お坊さん、私の友人があなたを本当に助けにきたかどうか確認しに戻ってきたんですよ。」と笑顔で応えていた。話を聞くと彼は敬虔なクリスチャンで、聖職者である私が困っている姿を見逃すことができなかったらしいとのこと。後から彼に聞いた話では、ほとんどの米国人が素通りしたのには理由があり、見知らぬ若い男がひとりこんな山奥で車が故障したと偽って、助けようとした善意あるひとたちを強盗・殺人などを行う犯罪が米国では時々あるので、彼らを責めないで許してあげてくださいね。と言われました。

人は、「やさしい」という心の中を実際には見ることはできません。そしてその人の行なったこと全てを見ていることも不可能です。私は私が知っていることだけですべてを判断しようとしたその時に、自分の愚かさを知り、また同時に無限のつながりが今の自分を支えてくれることを知るのではないでしょうか。その経験が宝であると。今となってはそう思わずにはおれない今日この頃です。

合 掌

この記事が掲載されている寺報やすらぎ