教え tell me – vol.15 師走を迎えて

2016年もまもなく終わりを迎えますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年は、リオオリンピック(史上最多41個のメダル獲得)や広島東洋カープの25年ぶりの優勝、日本ハムファイターズの10年ぶり日本シリーズ優勝、と輝かしいものがありました。

さて、私はよく映画を見に行くのですが、今年は特に良い映画に巡り会えたのではと思います。1500万人以上の人が見たアニメ【君の名は。】を見て感動し、宮沢りえ主演の【湯を沸かすほどの熱い愛】を見て涙を流し、【PK】インド映画を見て考えさせられたり、とさまざまでしたが、その中でも特に群を抜いて素晴らしいと感じた作品があります。それは、【この世界の片隅に】というアニメ映画です。

ファンタジーとして大ヒットした【君の名は。】と違い、【この世界の片隅に】という作品はノンフィクションで、呉市民を中心とした3000人以上の寄付金によって作られた映画です。

その内容は、第二次世界大戦下の広島、呉を舞台に大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常をいきいきと描かれている映画です。

終戦から70年以上が経過し、戦争を経験した諸先輩方のお話を聞くこともだんだんと難しい世の中になってきました。そんな中で当時の日本を知るきっかけとなってくれるのがこの映画の醍醐味であり、また戦争は映画の中だけの話ではなく、私たちが生きるこの日本で起こったことで、私たちの祖先がその厳しい時代に生き抜いてくれたことが、今ここで生きる私達の生活に繋がっているという気持ちを思い出させてくれるのです。

私の祖母も母親も広島県出身です。一歩違えば(広島で出産)母もこの世に産まれておらず、つまり私もこの世に生を受けてなかったんだよ、と教えてくれたことがあります。子供の頃によくつれていかれた原爆資料館では、いまだにあの写真がこの世のものとは思えないと感じてしまいます。戦争は多くの人が嫌うものですが、この映画を見たときに私が感じたのは、戦争が遠い過去の記憶として封印されるべきものではないと言うことです。私たちの多くは戦争を知りません。けれど、知らないからといって私たちには関係のないどうでもいい時代だと割り切ることは決してできないのです。戦争を知らない私たちだからこそ、この時代に生きてきた人達のことを忘れてはいけないし、語り継いでいかなければならないと思います。過去から続いてきた決して途切れることのない命のつながりがあるからこそ、今わたしがここにある不思議に気づかされる、そんな忘れてはいけないものが【この世界の片隅に】という作品につまっているのでは…と私は感じました。

親鸞聖人は教行信証の一番最後に、「前に生まれるものは後のものを導き、後に生まれるものは前のものの跡を尋ね、果てしなくつらなって途切れることのないようにしよう。それは数限りない迷いの人々が残らず救われるためである」と安楽集のことばを表記しております。先立つ御方をどういただいていくか? これは今に生きる私たちだけではなく、いつの時代にも必要なことではないでしょうか?

合 掌

この記事が掲載されている寺報やすらぎ